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コラム:くすぶる米景気懸念、ドル円に下方リスク=亀岡裕次氏

2019/01/13 0:11
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[東京 11日] - 円の急騰で年明け104円台まで急落したドル/円は、一時109円まで反発した。他通貨に対するそれぞれの動きからすると、ドルの上昇というよりも、円の売り戻し、つまり円安が原因である。昨年のクリスマス前にかけて進んだ米株安に歯止めがかかり、リスクオフの円高からリスクオンの円安に転じたのだ。

これは4つの要因が複合的にもたらしたものと考えられる。1つは景気減速懸念で米国の利上げ期待が後退、長期金利の低下が大幅に進み、株価の割高感が薄らいだこと。2つ目は、米金融当局者の発言が経済や市場の動向次第で利上げ見送りを支持するハト派的なものへ変化したこと。一段の金利低下を促し、景気減速への懸念を和らげる働きをしたとみられる。

さらに、昨年12月の米非農業部門雇用者数が市場予想を大きく上回る増加幅だったこと、米中通商協議が合意に至って対中追加関税が回避されるとの期待が高まったことが、景気減速懸念を緩和した。

なかでもリスクオンに大きく寄与した要因は、雇用統計の強さだろう。いくら株価下落や金利低下が進み、利上げが見送られるとの期待や通商合意への期待が高まっても、経済指標が市場の予想以上に悪化している状況では、景気減速懸念が強まりやすい。市場予想を下回る指標が増えつつある中で、雇用増や賃金上昇が逆に予想を大きく上回ったことは、景気への不安を鎮める働きをしてリスクオンを誘発したとみられる。

ただ、米国の景気減速懸念がこのまま後退していくとは考えにくい。昨年10月以降の米株安を受け、消費者マインドは先行き期待を中心に悪化し始めており、消費支出が抑制される可能性が高いからだ。減税効果が薄れることと合わせ、資産価格下落による逆資産効果が個人消費を減速させやすい。

海外経済の減速を受けて景況悪化が進む製造業に比べ、堅調に推移してきた非製造業の景況感も悪化し始めているのは、個人消費減速の兆しを示しているのかもしれない。これまでは個人消費が堅調だったことから雇用は大幅に増えてきたが、消費が減速すれば企業は採用に慎重になるだろうし、雇用が鈍化すれば消費減速を助長する。

12月の雇用統計は予想外に強かったが、求人件数は8月をピークに減少し始めている。米国の輸出、住宅投資、設備投資が鈍るなかでも堅調に推移してきた個人消費が減速すると、経済に負の連鎖が起きる恐れがある。

足元の米株価は戻しつつあるが、これでリスクオフの動きが収まり、リスクオン基調が続くか否かは、結局のところ経済の行方次第だろう。米10年国債利回りからS&P500株式益回りを差し引いたイールド・スプレッドは、株価下落と金利低下により、12月にマイナス4.55%と2016年6月以来の低水準まで低下した。

米供給管理協会(ISM)が発表する製造業新規受注指数は、2018年11月の62.1から12月には51.1へと急低下した。株式市場や債券市場の動きは、まるでこうした景気指標の悪化を事前に察知していたかのようだ。

今後、指標が下げ止まるのであれば、株価や長期金利は景気減速を十分に織り込んだことになり、上昇に向かうだろう。しかし、下げ止まらなければ株価や金利は十分に下がったとは言えず、頭を抑えつけられるだろう。

ドル/円の水準も、米国の景気指標次第で変わるはずだ。ドル/円は2017年までは米10年国債金利とS&P500株価指数変化率による推計値に連動していたが、2018年は米保護主義の影響によるドル安で、推計値を6―12円下回るケースが多かった。だが、12月以降は大幅な米金利低下と株価下落で推計値が急低下し、その幅は2―8円程度に縮まった。

例えば、米10年国債金利が2.4%に低下し、株価変化率(25日前比)がマイナス10%になると、推計値は109円程度となる。実際のドル/円がそれを2―8円下回るなら、101―107円となる。こうした為替水準はあくまでも目安に過ぎないが、米景気指標が市場予想を下回り減速懸念が強まると、リスクオフの円高と米金利低下のドル安でドル/円は下落しやすくなるだろう。

パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長は4日、市場が織り込む経済の下振れリスクに敏感であり、必要に応じて政策スタンスを大幅に変更する用意があるとし、柔軟に対応する考えを示した。FRBが利上げの見送りや、保有債券の再投資縮小(バランスシート縮小)の打ち切りに前向きな姿勢を見せれば、米景気に対する市場の不安とリスクオフを抑える要因にはなる。

しかし、FRBがハト派的な金融政策へシフトすることが、必ずしもリスクオンを誘発して米株価と長期金利、ドル/円の上昇につながるとは限らない。FRBが政策を変更するとの期待があっても、米指標の悪化が続けば市場の景気見通しは改善しにくく、リスクオフに傾きやすくなる。利下げ見通しが米金利低下とドル安を促すことにもなるだろう。

米中の通商協議が貿易分野で合意すれば、ドル高/円安に振れる可能性はある。ただ、知的財産権侵害や技術移転強要といった構造問題の解決には時間がかかる。米国がそれまで対中追加関税の発動を猶予しても撤回しないと、通商摩擦を巡る不透明感は払拭されにくい。

中国が米国から輸入する農産物やエネルギーを増やしても、米国景気を回復させるのは困難だろう。また、安全保障上の理由から、米国企業が中国製通信機器の利用を制限されることになれば、中国景気に悪影響を及ぼしリスクオフ要因となる。米中が貿易面で合意しても、世界経済が回復に向かう可能性が低いとなれば、リスクオンの円安は進みにくいだろう。

*亀岡裕次氏は、大和証券の金融市場調査部部長・チーフ為替アナリスト。東京工業大学大学院修士課程修了後、大和証券に入社し、大和総研や大和証券キャピタル・マーケッツを経て、2012年4月より現職。

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出典: jp.reuters.com

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