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コラム:米国株「崩壊」後の円高を防げるか=上野泰也氏

2018/02/13 2:28
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[東京 13日] - S&P500種指数・ダウ工業株30種平均・ナスダック総合指数の主要株価指数3つがそろって史上最高値を幾度も更新するなどバブルの様相を呈していた米国株が、2月に入って1000ドル単位で急落した。

筆者は昨年の終わり頃から米国株急落リスクの高まりを社の内外で警告していたが、クラッシュが起こったタイミングときっかけを事前にぴたりと予想することは、残念ながらできなかった。

米国には古くから「トライフェクタ」という言い回しがある。米紙USAトゥデーによると、あるレースで1着から3着までを着順通りに的中させる(馬番3連単を当てる)ことを、競馬の世界で「トライフェクタ」と呼んでいる。一方、株式市場では、以下の3つの条件が満たされて株価上昇シグナルが出ることが「トライフェクタ」である。

これらが全て実現した場合、年間でも株価が上昇する確率は93%。1950年以降で「トライフェクタ」は29回実現したが、うち27回で株価は上昇しており、平均上昇率は18%なのだという。

今年の場合、S&P500は12月22日から1月3日までの7営業日に1.1%上昇したので、最初の条件はクリア。1月の当初5営業日には昨年末から2.8%上昇したので、次の条件もクリア。そして1月末には昨年末から5.6%上昇したので最後の条件もクリアし、「トライフェクタ」が実現した。経験則に従えば、今年は年間で株価が上昇する年ということになる。

ところが、2月に入ってからのフラッシュクラッシュ的な動きも交えた急落で、株式市場を取り巻いていた「ゴルディロックス(適温相場)」の構図は、いったん大きく崩れた。ドル安・原油高・米1月雇用統計における時間当たり賃金の前年同月比プラス2.9%への上振れが、インフレ圧力増大・利上げペース加速を警戒した米国債利回りの上昇方向のレンジブレークを引き起こし、これが米国株を最高値圏から引きずり降ろす主因になった。

ヘッジをかけずに株式のロングポジションを上乗せするといった油断や慢心のツケが、一気に回ってきた形である。今年はまだ先がかなり長いものの、米国株が年間で上昇するかどうかは微妙である。

今般の局面で注視すべきは、米国株の下落がこのまま続いていけば、投資マネーの逆流を通じて新興国を含む世界経済全体に悪影響が及び、「世界同時好況」が崩れてしまうリスクが膨らむ点である。筆者が想定していたことではあるのだが、パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長は就任早々「市場の洗礼」を浴び、危機管理能力を試されている。

それぞれの市場が新たな落ち着きどころを、どのような水準に、いつごろ見出すのか。「運命の分かれ道」は、1)賃金・物価の上昇を抑制する構造的な力がこれからも働き続けるかどうか、2)米国株の調整が米国の利上げ路線にブレーキをかけるところまで深まるか、の2点だ。

1点目では、3月9日発表の次回米雇用統計(2月分)で時間当たり賃金の前年同月比プラス幅縮小を確認することが最低限必要になる。また、2点目について言うと、FRBの利上げ路線に一時的にせよブレーキがかけられることで米債券市場のセンチメントが改善して安定に向かい、株価も新たなレンジ内の上下動に落ち着いていくというルートが考えられる。2月末に行われるパウエル議長の議会証言が、1つのヤマ場になる。

安倍内閣の支持率が歴代内閣に比べて高めの水準をキープしているのは、他の人的な選択肢が乏しいことのほかに、経済状況の良好さゆえであり、それを支えているのが円安だ。「危機管理の司令塔」である菅義偉官房長官が為替相場の安定・円高阻止に高い関心を抱いていることは、過去の発言からも明らかだろう。

2016年12月27日に日本経済新聞に掲載された菅長官のインタビュー記事は、今でも筆者の記憶に強く残っている。そこには、「日本企業が見通しを立てられるような環境にすることがものすごく大事だ。私の重要な危機管理の1つに為替がある」「私たちの為替への意識は強く、中途半端な決断ではない」という発言があった。

そして、米国株の急落が波及して日経平均株価が終値で前日比1000円を超える下落を記録した今年2月6日、菅長官は「為替の水準にはコメントしないが、安定はきわめて重要。引き続き為替市場動向を緊張感をもって注視していく」と、午前の記者会見で述べた。

これに呼応するかのように、黒田東彦日銀総裁は同日午後の衆議院予算委員会で、「現時点で、例えば10年物国債の操作目標を若干であれ引き上げることは適切でない」と明言した。日銀金融市場局による1月9日のやや唐突な超長期国債の買い入れ減額が、上昇方向で日銀が金利調整をかけるのではないかという海外投資家の思惑を刺激し、円高ドル安に結びついたことを、黒田総裁は十分認識しているはずである。

そうした時期尚早の金利引き上げ観測を「鎮火」することに、最近の黒田総裁はかなり力を入れている。上記の発言は、たとえ0.1%という極めて小さな幅でも長期金利ターゲット(ゼロ%程度)を引き上げるつもりはないことを、あえて強調したものである。日銀も円高リスクに相当神経質になっている。

日米中央銀行の「金融政策のベクトルの違い」ゆえに、ドル円相場は、長期的な均衡の目安とされる購買力平価の水準(日米の輸出デフレーターを用いた筆者の試算では2017年9月末時点で81.34円)に比べて、かなり円安ドル高の水準に位置している。

現在はそうなるよりも前、米国の利上げの継続がまだコンセンサスになっている時間帯であり、ドルは下支えされている。昨年9月8日につけた107.32円が非常に重要なポイントで、ここを超えて円高が進めば105―110円程度のレンジ、超えなければ108―112円程度のレンジ形成になるだろう。

いずれにせよ、日銀が引き上げ方向で金利調整に動こうとすれば、日本の経済・企業業績のウィークポイントである円高が急進行してしまう恐れが大きい。従って、日銀はこの先も金利調整に動くことはできず、「次の一手」は円高対策としての追加緩和になるだろうと、筆者は一貫して予想している。

*上野泰也氏は、みずほ証券のチーフマーケットエコノミスト。会計検査院を経て、1988年富士銀行に入行。為替ディーラーとして勤務した後、為替、資金、債券各セクションにてマーケットエコノミストを歴任。2000年から現職。

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出典: jp.reuters.com

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