Receive up-to-the-minute news updates on the hottest topics with NewsHub. Install now.

「山崎努さんの“熊谷守一”が見たい」から始まった「モリのいる場所」沖田修一監督インタビュー

2018/05/27 2:00
77 0
「山崎努さんの“熊谷守一”が見たい」から始まった「モリのいる場所」沖田修一監督インタビュー

 「僕も最初は守一さんが描いたアリの水彩画を見て、子供感が強い可愛らしい絵だと思いました。『これが名画なの?』って」。沖田監督が愛情を込めて“守一さん”と呼ぶ熊谷守一(1880~1977年)は、明るい色彩と単純化された風景、動物や植物の絵で知られ、その容姿や言動から「画壇の仙人」と呼ばれた。2017年12月から18年3月まで東京国立近代美術館で開催された回顧展「没後40年熊谷守一生きるよろこび」は、入場者数が11万人を突破するなど、その作品は今も多くの人に愛されている。

 沖田監督が熊谷守一を知ったのは、11年に岐阜県で映画「キツツキと雨」を撮影していた時のこと。出演していた山崎努さんから、同県中津川市にあった熊谷守一記念館に行くことを勧められたものの、その時は時間がなく、足を運べなかったという。

 映画に登場するカメラマン“藤森”のモデルにもなった藤森武さんの写真集「独楽-熊谷守一の世界」に写る晩年のチャーミングな熊谷さんの姿にもひかれ、いつしか「山崎努さんの演じる守一さんが見たい」と思うようになった。そして15年に書き始めて16年に完成した脚本を山崎さんに送る。山崎さんから出演OKの返事をもらったことで、映画化の話が具体的に進んでいったという。

 映画の舞台は1974年の夏のある1日。94歳の画家“モリ”は、結婚して52年目の妻・秀子と彼女を手伝うめいの美恵の3人で暮らしている。午前中は草木生い茂る庭を“探検”して虫や草木を観察し、深夜に絵を描く生活を送り、30年間家の外には出ていない。そんなモリの家には、カメラマン、画商など、さまざまな人たちが集まってくる--。

 「1日を描くことで、30年という気の遠くなるような長い月日の間の出来事を、観客に想像してほしかった。あと、隠居生活と思いきや、朝から晩までずっと忙しいところも皮肉で面白いかなと思って」と沖田監督。映画には「受章すると来客が増え、面倒で煩わしい」という理由で文化勲章の受章を辞退したり、庭の向かい側にマンションが建設されたりといった実際のエピソードや、「アリは左の脚の2番目から歩きはじめる」「下手でいい。上手は先が見えちまいますから。下手も絵のうちです」など熊谷さんの有名な言葉がちりばめられている。

 映画で山崎さん扮(ふん)するモリは、内面を隠す“渋顔の仮面”をかぶっている。「独楽-熊谷守一の世界」にある守一のチャーミングな表情とは異なるが、これは山崎さんのアイデアだという。「守一さんは山崎さんの“アイドル”ですし、僕よりも思い入れが深い。そもそも山崎さんの守一さんを見せてもらうための映画としてスタートしているので、山崎さんのやりたい守一さんを演じてもらいました」。その仮面が外れ、モリの本心が漏れるシーンがあるが、そこは映画を見て確認してほしい。

 秀子役を演じる樹木希林さんが出したさまざまなアイデアが、映画にさらなる深みを与えている。その一つが、秀子が前の夫について触れるシーン。1922年、守一が42歳の時、24歳の秀子さんと結婚するが、秀子さんは再婚だった。和歌山県生まれの秀子さんは同郷の夫から離れ、熊谷さんの元に走った。脚本には入っていなかったこのエピソードを、樹木さんの提案で、美恵との会話の中に盛り込んだ。

 山崎さんや樹木さんなどベテラン俳優を前に、緊張することはなかったのだろうか。「僕は山崎さんの半分の年齢ですからね。それでも『監督』と呼んでくれて、敬語で接してくれた。プレッシャーを感じつつも、期待に応えたいと思いました」。さらに「2人の姿をドラマや映画を見ていたので、自分の映画に2人が映っているのがすごく不思議。夢だったような気がします。他の映画に出演してくれた俳優さんも同じで、テレビで目にしても、“タレントさん”にしか見えません」と笑った。

 これまで沖田監督の撮った7本の長編映画を見ると、本作をはじめ、「南極料理人」「横道世之介」という昭和を舞台にした作品だけでなく、現代を舞台にした「キツツキと雨」「モヒカン故郷に帰る」などの作品においても、どこか「古き良き昭和」的ノスタルジーを感じる。登場人物が、北野武監督の映画「アウトレイジ」シリーズのキャッチフレーズ「全員悪人」と正反対の、「全員善人」であることにも関係するのかもしれない。

 「よく人から『優しい』みたいなことを言われるけれど、全然そんなふうには思っていなくて」と前置きしつつ、「楽しい映画を作りたいと思っているので、笑える映画であれば悪人が出ても構わないんです。“全員悪人のほっこり系ムービー”みたいな(笑い)」と説明。「あと、ちゃんと消費税を払って生活している市井の人たちを描きたい。庶民的な感覚を映画に持ち込みたいという気持ちはあります」と続けた。

 「モリのいる場所」について沖田監督は「小さな世界で広さと豊かさを感じて生きている人の姿を描きたかったのかもしれません」と語る。「敷居の高い映画ではないし、守一さんの家に遊びにきたような気持ちになれると思います。ぜひ、遊びにきてください」。その目は、やはりどこから見ても、優しい。

おきた・しゅういち1977年生まれ。2001年に日本大学芸術学部映画学科を卒業。元南極観測隊員・西村淳のエッセーを映画化した「南極料理人」(09年)で商業映画デビュー。「キツツキと雨」(11年)で、第8回ドバイ国際映画祭の最優秀男優賞、脚本賞、編集賞を受賞。「横道世之介」(13年)で第56回ブルーリボン賞作品賞。代表作に「滝を見に行く」(14年)、「モヒカン故郷に帰る」(16年)など。

出典: mainichi.jp

ソーシャルネットワークにおけるシェア:

コメント - 0