Receive up-to-the-minute news updates on the hottest topics with NewsHub. Install now.

東大「中国人学生の博士論文不正事件」と研究者の良心基準

2017/12/05 4:40
1 0
東大「中国人学生の博士論文不正事件」と研究者の良心基準

 最近、東大に留学していた中国人学生の博士論文において不正が行われていたことが発覚したとの報道があった。博士論文と言えば、科学者になるための登竜門として最も重要な論文であり、正直に書かれているだけでなく、内容が革新的で後世に長く大きな影響を与えるものであることが重視される。そのような論文において何割も既存の研究の不正盗用があったとすれば、それは深刻な事件である。今回のような文系分野と私の理系分野とは状況の違いも多少あろうが、アジアに名だたる東大の大学院では“あってはならないこと”だ。今回で6人目の不正事件だという。

 私自身が博士号を取得した1988年においては、インターネットもなく、論文やそのデータのデジタル化も進んでおらず、文献は図書館で借りるか複写させてもらうしかなかった。また、惑星科学という新しい分野の研究をしていた私には、既存の研究論文も多くなく、盗用したらすぐに分かるような状況でもあった。当時に比べれば、現在はきっと誘惑が多い時代なのかもしれないが、根本的問題は、研究者の良心基準である。

 前回は、伊勢雅臣氏提案の「人格力」という言葉を紹介したが、人格というのは、良心に従って行動できる能力であると思う。自分の目先の利益にとらわれず、何十年後でも正しかったと評価され、自分だけでなく多くの人々を益することができる情報を発信することが研究者の道であるはずだ。

 2005年に探査機はやぶさが小惑星イトカワにランデヴーした際に、科学チームのうち、岩石・鉱物組成を調べる近赤外分光計(NIRS)のチームにいた私は、多色カメラ(AMICA)チームと共に宇宙風化の存在を探っていた。月における宇宙風化は長く既知の事実であったが、小惑星に宇宙風化が存在することを信じていた研究者は当時少なかった。我々は1999年に始めた実験によってその存在を確信していたが、模擬実験の結果は証明にはならない。

 NIRSチームが米科学誌 Science のはやぶさ特集号に出した論文では、NASAからの研究者の不当干渉もあり、お茶を濁したような結論しか書かれなかった。私の論理的反対にもかかわらず、そのような論文になってしまったことに憤慨した私は、私が信じる科学的事実に合意する有志を集めて、Nature に論文を出した。それは、実験室での模擬実験と、NIRSデータと、宇宙風化モデルなどを自分の手で調べて出した結論だった。2006年に出たその論文の内容は、はやぶさが2010年に帰還して、2011年にイトカワ試料の解析結果が出た結果、正しいかったことが分かった。

 人類の知的財産である科学的発見を論文に発表するには、やはりそのような姿勢が必要であると信じる。少し前には、小保方晴子さんの問題があったが、STAP細胞ができていたか否かは別として、論文の書き方に問題があったのは事実であろう。研究の進め方、論文の書き方、出版する雑誌の選択、その雑誌の編集者による査読者の選択、そして査読者たちの判断などのすべてが正しくないと、正しい科学的発見は公にされなくなる。私はそれらのいろんな段階で間違いが起こった例を経験してきた。

 惑星科学というのは、太陽系の46億年近い歴史を扱う学問である。その研究者が、自分のキャリア人生数十年も耐えられないような短命の論文を書いていたのではまったく説得力のない話である。そして、宇宙や太陽系の神秘、また人類の起源を語りながら、自分や自分の研究室の損得を動機として論文を書き、他人の論文の査読、研究費申請の評価、人事判断などをしていては、もはやそれは偽善者ではないかと思える。今回の博士論文不正事件をきっかけに、すべての研究者が心機一転して自らの使命を悟ってくれることを願うものである。

出典: vpoint.jp

ソーシャルネットワークにおけるシェア:

コメント - 0